大阪地方裁判所 平成12年(ヨ)1829号 決定
債権者
株式会社A
(旧商号 株式会社A')
右代表者代表取締役
甲野太郎
右代理人支配人
乙川次郎
右債権者代理人弁護士
正木丈雄
右債権者代理人弁護士
島田和俊
債務者
株式会社B
右代表者代表取締役
丙山三郎
主文
一 本件申立てを却下する。
二 申立費用は債権者の負担とする。
理由の要旨
一 本件は、債権者が、債務者に対する平成七年七月一一日付け八億五〇〇〇万円の金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求権の内金一億円を被保全権利として、マンション三棟及びその敷地(別紙物件目録一から三)の強制管理を予定した仮差押えを申し立てた事案である。
二 疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、債権者が別紙物件目録一から三記載の各不動産につき根抵当権の設定を受けていること、右各不動産の固定資産税評価額を合計しても債権者が右貸金のほか、債務者に対して有していると主張する債権総額には十億円以上の不足があることが認められ、これによれば、右各不動産の時価は債権者が主張する債権額を大きく下回ることが推認できる。
三 債権者は、前記一記載の貸金返還請求権のうち右各不動産の時価を超える部分につき、本執行を待たず、現在仮差押えにより強制管理を開始する必要性があると主張する。
しかしながら、保全の必要性の有無は、債権者側の事情だけでなく、債務者側の事情、殊に保全処分により与える不利益も考慮して判断すべきものである。そして、仮差押えの執行として強制管理の方法を選ぶ場合には、仮差押えの登記をする方法であれば債務者の使用収益が許されるのに、これをも債務者から全面的に奪うという点で、債務者に与える打撃は極めて大きいものがあるから、その必要性を肯定するには、債務者の財産管理の現状を維持するだけではとどまらない事情が認められなければならないことはいうまでもない。なお、仮の地位を定める仮処分と異なり、手続上も債務者の審尋が予定されていない仮差押えの場合には、債務者による防御の機会も極めて限定されていることも十分考慮すべきである。ところで債権者が抵当権(根抵当権を含む。以下同じ。)者である場合には、不動産の所有名義が移転されたとしても、なお、競売や賃料債権に対する物上代位が可能であり、物上代位によれば、取立てにより、配当等の手続を待つことなく優先的に被担保債権に弁済され遅延損害金の発生も避けられるという点で、債務者にとっても強制管理より有利である。そうすると、一般的にみて、強制管理の方法による執行を予定する場合に、仮差押えの必要性を安易に認めることはできず、まして抵当権を有する者にそのような仮差押えの必要性を認めるのはさらに慎重にならざるを得ないというべきである。
本件の事案に即して考えても、債務者がビルの賃貸等を業とする会社であり(甲二)、現にマンション三棟から毎月三〇〇万円程度の賃料収入を挙げていること(甲一七、審尋の全趣旨)からすると、債務者は、本件マンションにつき相応の管理を行っていることが認められる。したがって、その管理権を奪うことは、債務者に与える不利益が極めて大きいものがあるというべきである。その反面、本件全疎明資料によっても、債権者が本件マンションにつき、根抵当権に基づく物上代位権を行使できないような特段の事情は見当たらない。また、仮に強制管理の方法によることを選ぶとしても、これにより得られる収益は本執行開始までのものであって、それが極めて大きいとも認めがたい(甲一七(試算表)のような収益を挙げられるかどうかも、必ずしも明らかではないし、他の債権者が強制管理の本執行を申し立て配当が必要となる可能性も否定できない。)。
なお、債権者は、債務者は既に債務を履行しなければ物上代位を受け得る地位にあるから、保全の必要性の判断において強制管理により賃料収益を受けられなくなることを考慮すべきではない旨主張する。しかしながら、物上代位と強制管理とは全く別の制度であり、現行法が抵当権に基づく強制管理の制度を採用していない以上、債務者が根抵当権設定者であるからといって、当然に債務名義なき一般債権者の仮差押えの執行としての強制管理を受け入れなければならないということはできない。
以上によると、本件においては、仮差押えの登記をする方法によることなく強制管理の方法による仮差押えの必要性が認められないから、被保全権利について判断するまでもなく、債権者の申立ては理由がないというべきである。よって、主文のとおり決定する。
(裁判官久留島群一)
別紙物件目録<省略>